ラムドン省にみるベトナムの農業の問題点
更新日:2016年1月25日 / ライター: 内藤 健朗 - Naito Takeaki -: N.N.T Co.,LTD.
最近、仕事でラムドン省(Tỉnh Lâm Đồng)へ行くことが多くあり、農業に携わる方々の話を良く聞きます。そこからベトナム農業の問題点が見えてきました。
ベトナムの農業従事者の人口は約5割弱を占め、GDPでは約2割程度を占めます。携わる人口が多い割りにGDPへの貢献度は相対的に低く、農業が低付加価値分野であることが分かります。
原因として幾つか挙げられますが、それらは複雑に絡み合い、関係しています。
ベトナム農業の問題1:低付加価値の農作物が多い
- 作っている商品の品質が低い。見た目や味が悪い。傷が付いている、完熟していないなど。
- 大勢が作っているものが似通っているので、商品単価が低い。特に一時期、良く売れる、売価が高いとなると、皆が似た作物ばかり植えるのが問題です。現在のドラゴンフルーツがこの状態で、中部高原の胡椒も同じ状況になるでしょう。
原因2:販路の問題
農家は仲買人を通じて農作物を販売しますが、この仲買人の買値が低い。仲買人のマージンが大きいのも問題で、また(正確な統計は不明ですが)流通ロスもかなりの割合を占めます。農家→仲買人→卸売市場→小売人→消費者というルートで売られるうちに、価格は何倍にもなってしまいます。
原因3:未熟な技術
特に、下記2点が大きいと思います。
- 高品質の商品の栽培ができない。何を作っていいのか分からない。販路がないため作れない。
- 農作物の加工技術が未熟。原因1と関係し、低付加価値の原因でもあります。
これら2点は、「「技術を教えてくれたら、その通りに作って売ります」とよく言われます。実際の商取引においては、技術を指導して一人前になるまで待つことはなく、対応できる所から買うのが普通です。この辺の意識のギャップも問題です。
環境破壊について
ダラット(Đà Lạt)からニャチャン(Nha Trang)へ通じる道への道中、チャイマット(Trại Mát)という地域を通ります。この辺は名前から、かつての避暑地だったのを連想させるのですが、現在はビニールハウスが並び、ダラットでも有数の花と野菜の栽培地域になっています。ダラットのビニールハウスは主に雨よけのために作られており、日本のように温度維持や虫除けの目的はあまりありません。よってこれらビニールハウスで作られた野菜が「安全」であるとは必ずしも言えないのですが、「安全野菜」としてホーチミン市で高く売られています。そのためビニールハウスが急増し、大きな環境破壊を起こしています。
ビニールハウスを建てるには、山の木を切り、山を削らなければなりません。次にビニールハウスは雨が地面に沁み込むのを制限してしまいます。すると保水力を失った山は大雨のときは水を保持できず、水も地面に沁み込まれ難いため鉄砲水を起こします。近年ダラット地域でも洪水、鉄砲水が問題となっており、死者も出ています。
冒頭の低付加価値の農業から高付加価値の農業へ転換した象徴がビニルハウスですが、このような環境問題を起こす原因になり死者も出したのは皮肉です。今後は、商品の価値向上と環境保全を両立した農業のモデルが求められると思います。
ライター情報
内藤 健朗 - Naito Takeaki -: N.N.T Co.,LTD.
大学卒業後、ベトナム語の語学留学でベトナム語を勉強。1993年から在越。約8年会社勤めをした後、2004年11月に独立、貿易会社経営。品質管理、生産管理に強い。機械、樹脂製造業のほか食品、美容、農業関係の商品も取り扱う。あまり日本人が行かない地域への出張も多い。近年は輸出入業だけでなく、ベトナム国内マーケット開拓に注力。 プライベートでは、僻地、秘境の旅行地開拓を得意とし、今の趣味は登山、キャンプと筋トレ。