ベトナム・ホーチミンで働く日本人~べとまる 水嶋健さん~
更新日:2016年10月28日 (取材日:2016年8月14日) / ライター: JAC Recruitment Vietnam
大学卒業後、エンジニアとして5年間働いていた水嶋さん。海外旅行でベトナムを訪れたことをきっかけにベトナムの面白い出来事を発信したいという思いから、「べとまる」を開設。ちょっと変わった切り口でベトナムを面白おかしく紹介しています。今回はそんな水嶋さんにベトナムに来るまでの経緯から、べとまるについてなど多岐にわたるお話を伺いました。
ベトナムに来るまでの経緯
Q大学卒業後なぜシステム開発会社で働いていたのでしょうか?
元々、私は広告クリエーターになりたかったため、大学に通いながら広告専門学校にも通っていて、就職活動も広告クリエーターの道を目指して行っていました。しかし、なかなか就職先が見つからず両親にもしびれを切らされ、大学の仲間たちが先々に就職先を決めていく中で、志が折れてしまったため(情報システム系の)大学から紹介されたシステム開発会社に就職して5年間エンジニアとして働いていました。
Q実際エンジニアとして働いていてやりがいはありましたか?
重要な仕事だと頭で分かっていても、システムをつくってもそれを使う相手の顔が見えない仕事に面白さを感じることが出来ず、やりがいも感じられませんでした。仕事でやっていることと自分がやりたいことの差異に苦しみを抱いている時期はありました。
私は3人兄弟なのですが、兄はテレビ関係の仕事、妹はライターの仕事をしていて、2人とも自分がしたいことをしているように見えて、本当に羨ましくて苦しかったです。
「やりたいことは、好きなこと」「やりたくないことは嫌いなこと」だと思います。だからエンジニアの仕事は上手くいきませんでした。また、結果が出なくて、怒られ、楽しくなくて、上手くいかなくなる、という悪循環になっていました。だから、早くその悪循環から抜け出さないと思い、目標を作り頑張っていましたね。
Q.その目標というのはどのようなものだったのですか?
入社して2年ほどが経ったときには就活仲間だった友人たちから「夢見るようなものじゃないよ」という話を聞かされ、徐々に広告業界への夢は薄くなっていました。とにかくそのときは「面白いことをしたい!」という思いだけが募っていて、周りの友人に面白そうな会社はないかと相談してよく名前が挙がった会社が、鎌倉に本社のあるweb会社の面白法人カヤック(以下、カヤック)だったのです。
その会社は給料の一部をさいころで決めるとか変わった会社で、ARで80メートルの等身大エヴァンゲリオンを再現したり、アイデアを一個100円で売るというサービスを運営したりと、事業もおもしろい。ここでなら面白いことができそうだと、知れば知るほど興味がそそられましたが、何の実績がある訳でもない、そもそも自信もない今の自分がここで働くことは無理だろうと思いました。だから、自信がつくまで自分で面白いことを次々とやってみて、いつかカヤックの採用試験を受けようと思うようになりました。
その後3年間くらいは会社に勤務しながら、面白いことを自分自身で行うことに専念し、隣駅の切符で一都六県を電車で回る企画とか、Twitterで大喜利をつづけてニュースサイトに載ったとか、そういったことを繰り返し、入社5年目になったとき、面接を受けたのですが最終面接で落ちてしまいました。
エンジニアの仕事にも気持ちを込められず、そのとき炎上している案件を任せられたということもあり心が折れ、「とりあえず、辞めよう」と思い、先のことを何も考えずにその会社を辞めてしまいました。
Q.仕事を辞められてからはどのような生活を送っていたのですか?
辞めてから1か月間は家でボーっとしたり、皇居や自衛隊基地の社会見学など、平日にできなかったことをしたりしていました。そんな毎日を送る中で、漠然と海外に行ってみようかなと思うようになりました。それまで、一度も海外に行ったこともなかったので、これを機に海外に行ってみようという気持ちになり、中国の大連とタイ、台湾、イギリス、フランス、スペイン、そしてベトナムに行きました。初めての海外一人旅だったのですが、各国に知り合いがいたということもあって安心して旅をすることができました。
Q.ベトナムで働くことになった経緯を教えてください。
海外旅行をする前、カヤックのアイデア募集サービスを利用し「海外旅行をする上でなにか転職活動に繋がることはあるか」と悩み相談投稿をしたのです。そうしたら、「そのまま海外に就職すべきだ!」という答えをいくつかいただいたのですね。アイデアじゃないけど。当時は海外に行ったこともなく、全くイメージもつかなかったので、出来るわけないと思っていましたが、気持ち的には引っかかっていました。
また、Twitterで仲が良かった青年が、新卒で、日本で就職できないから中国で就職したということに衝撃を受け、実際に中国に行って青年の話を聞いているうちに、卒業したばかりの人間が海外就職する時代なのだということに気づいたのです。
カヤックのサービスに相談投稿した時、誰かから連絡をしてくれるかもしれないと思い、自分のツイッターのアカウントを書いていました。それを見たホーチミンでIT会社のディレクターをされている方から連絡があり、現地で会って仲良くなる中で、ベトナムの新規事業に携わってみないかと誘われたのです。人生に悩んで立ち止まっている中で、何か新しく楽しいことをしてみたかったので誘いを受け入社しました。日本で研修を受け、ベトナムに渡ってホーチミンで働いていましたが、仕事に関して想像と現実のギャップが大きく、自分は何をしにきたのかという気持ちが募って、ベトナムに渡って4か月後にはその会社を辞めました。
その後何か面白いことをしたいなと思い、情報発信やアイディアを考えるのが好きだったので、まずはベトナムでの日常生活の面白さをブログで発信したいと思い、「べとまる」というサイトを立ち上げました。
べとまるについて
Q. べとまるを始めた頃はどのようなことを書いていたのですか?
最初はベトナムでの生活の中で自分に必要なものを題材としていたので、いわばブログを面白くおかしく書こうとしているだけでした。しかし現在では、べとまるや、他のサイトでも、ベトナムをよく知ってもらおうとか、めちゃくちゃ笑ってもらいたいとか、もちろんPVを伸ばすとか、原稿料もいただいてますのでプロ意識を持って記事を書いています。
Q.水嶋さんが書かれている全てのサイトの記事には、何か通ずるものはあるのですか?
基本は全て取材を行い、その取材内容から記事を書き上げています。自分の目で見て自分で質問して、そのとき自分が何を感じたかということを大切にしているので、取材は欠かせませんね。
Q.どのようにネタを考えているのですか?
極端な話、どんなものでも切り口次第でネタになると思います。今ここにペットボトルがありますけど、人間は一日ペットボトル何本分の水が必要らしいから実際にそれをやってみるとか。ベトナムはバイクが多い、一体どこ行ってるんだ、じゃあ「どこに行くのか」聞いてみようとか。なんかシュールじゃないですか、バイクの大群に「どこに行くんですか?」って疑問を呈する行為自体が。それ以外に、紛れられるってことでウォーリーのコスプレ姿で隠れたり、友人は暴走族の総長のコスプレをして先頭に立ってましたが。そういう、バイクなら、移動手段だから目的地があるはずだとか、数が多いから紛れられるはずだとか、暴走族みたいとか、ものの特徴がそのままネタにつながると思います。
Q.それぞれのサイトではどのような方を対象にされているのですか?
べとまるでは、ベトナムのファン、つまり、ベトナムのことを知っている人、ベトナムに住んでいる日本人、日本にいるベトナムを知っている人、日本語がわかるベトナム人を対象に、いくらマニアックであってもこれだと思えるなら平気でベトナムの情報を書いています。あと自分のサイトなので、正直書きたいように書いてますね。スイティエン仮面とかその最たるものだと思います。頭おかしいですよね。頭おかしくありたいです。
その他のサイトでは、ほぼ日本に住む日本人が対象になるので、企画でひねるならベトナムの一般知識を元に、マニアックな情報であっても見た目でインパクトがあったり、日本人に身近に感じてもらえるテーマを選んで記事にしています。ベタにバインミー(ベトナムサンドウィッチ)を紹介するとか。
Q.前職の経験はどのように生かされていますか?
5年間は望んでエンジニアとして仕事をしていた訳ではなかったのですが、ある程度の知識はやはりつきました。その結果、今となっては、もともと苦手意識のあったIT関係のことでも抵抗なく触れられますね。現在のインターネットの世界では、文系の要素、文章を書く能力や企画をする能力などが求められるようになったと思うので、元々文系寄りだった私にとっては今の環境がとても合っていると思います。
Q.働く上で心がけていることはありますか?
目的から逆算し、その上で対象となっている人のことを考えるということですね。べとまるでは好きにやってましたけど、他のサイトで書くときはPVを増やすとか、そのサイトのカラーに沿うとか、いろんな守るべき制約や果たすべき目的がある。ネットの記事って読んだ人の反応が分かってしまう、ときにはSNSでクレームを受けたりもするので、ごまかせず、良いものを書けるように努力するしかないんですよ。なので、当たり前のことですが、目的から考えるようになりました。
Q.ベトナムにいらっしゃってから変化はありましたか?
一番の変化として挙げるなら、それは、自信がついたことだと思います。自分が尊敬している人に、認めてもらえることができれば、それはきっと揺るぎない自信に繋がると思いますよ。そして、ライターという天職が見つかったと思っています。自分の感性に響いたものを、文字にするという仕事に出会えたということは本当に財産だと思います。
今後について
Q.今後の目標はありますか?
ベトナムのことをこれからも日本に伝えられたらいいと思っています。一方で、日本に興味があるベトナム人もどんどん増えてきているので、今後はベトナム人に日本のことを伝えていけたらと思っています。今までは主観的に、自分が面白いと思ったから、ベトナムのことを伝えようと思っていたのですが、次は必要としている人に必要な情報を客観的に届けられれば良いなと思っています。自分らしい色付けはしたいとは思いますけどね。
Q.最後にベトナムで働きたいと考えられている方にアドバイスをお願いします!
ベトナムは、たぶん向いている人向いていない人がはっきり分かれる国だと思います。きっと、困難を楽しめる人が向いていると思います。この国では、日本ではありえないような理不尽なことがいつでもとこでも起こります。ただ、そのようなネガティブなことが楽しめる人は是非ベトナムに来てみてください。
取材を終えて
仕事時と遊びの切り替えのギャップに驚きました。楽しむときはとことん考え抜いて楽しんでいる姿や、お仕事の際も楽しみつつ真剣に取り組んでいる姿が印象的でした。水嶋さんはユーモアに溢れながらも、知的で分析力に長けている方だと感じました。
お忙しい中、貴重なお話から個人的な悩みに対して的確なアドバイスをくださいまして非常に感謝しております。
取材:8月14日 高山木実(JAC Recruitment Vietnamインターンシップ生)