ベトナム・ハノイで働く日本人インタビュー~STAR LOTUS 佐藤さん~
更新日:2016年3月8日 (取材日:2016年2月3日) / ライター: JAC Recruitment Vietnam
スタールビー宝石専門店とお土産店「STAR LOTUS」を経営されている佐藤栄一さん。新卒で日本を飛び出し24年、ハノイでどんな仕事をしているのか、またピンチをプラスにどう行動したのか、佐藤さんの壮絶な話を聞かせていただきました。また経験したことに対して、どう自分自身が動くか考えるきっかけにもなるインタビュー記事です。
目次
ベトナムで生活をするまで
ベトナムに来られる前はどのようなことをされていましたか?
ベトナムに来る前は、大学生でした。新卒でベトナムに来て24年、19年間日本とベトナムの合弁会社に勤務し、現在ハノイでスタールビー専門店とお土産屋の「STAR LOTUS」の経営をしています。
中学生の頃から、海外ラジオ放送を聞いており、海外から声が届くことに興味を持ち、海外に出てみたいと思うようになりました。大学生のとき、台湾に語学留学しました。人生で一番勉強をした時期でしたね。台湾に居れることが嬉しくて、中国語を必死に勉強しました。大学を卒業して、台湾に行こう!と思ったのですが、もっといろんな国を見たいと思うようになりました。当時1987年にスタールビーが初めて発掘され、1993年にベトナム政府がドイモイ政策の一貫でスタールビーを国の産業にしようと、外資系を進出させている時期でした。日系の宝石会社が合弁会社を立ち上げた話を教えていただきました。そこで、卒業時期とスタールビー事業のタイミングが合い、ご縁もあり声をかけていただきベトナムに進出する決意をしました。新卒での海外進出に関しては、不安よりも海外で経験を積みたいという思いが上回っていました。
24年間ハノイ生活で、変化をどう感じていますか?
町の変化と共に、生活スタイルも変わっていることを実感しています。特に交通に関して、かなり変わっていると感じています。24年前は、バスが3路線のみで現在のような移動手段としてバスを使わず、自転車が主流でした。2016年6月に電車が開通予定ですし、発展していく様子も楽しみです。システム的にはインターネット予約、ICカードも導入される予定でハノイの街が大きく変わっていると感じています。ただ、ドアtoドアで移動できるバイクの便利さは変わらないですね。
新卒で海外に飛び出し現在までの道程
事業内容を教えてください。
スタールビーを販売する宝石専門店を主な事業としています。スタールビーを集め、加工し、お客様に提供する。これが主な事業です。加えて、お土産屋も併設しています。
※スタールビーとは?
石の頂点から6つの方向に線が入り、この線が星のように見えることからスタールビーと呼ばれています。1987年にスタールビーが初めて発掘されて以来、ベトナムではハノイ南西約300kmのQuyChau省で初めて発掘されました。現在は主に、ハノイ北西約300kmのYemBai省で採れています。ベトナムでは、赤にピンクがかった色のスタールビーが採れます。希少価値が高く、ミャンマーに引けをとらない品質高いスタールビーも産しています。
新卒で海外に進出し、現在までどのような道のりでしたか?
タイにもともと工房があり、ベトナムでの話を機にベトナムに移設することになりました。ベトナムのパートナーが用意した土地に工場と宿舎を併設し、宝石学校の生徒と苦楽を共にしました。地方から義務教育を終えたばかりの子供たちを宝石職人として迎え、日本から職人を招き、衣食住を共にしながら宝石を作る技術を教え込む言わば宝石学校のような工場を作りました。3年ほど経験を積むと、売れる商品が出来上がるようになりました。そのため、1996年頃から小売事業を始めました。この頃ハノイでは、業界、ライバル会社の壁を越え、情報をお互いに提供し合いながらまとまって生活をしていました。当時、経営の経験もなく、経営学もほとんど学んでいない状態でしたので、お店をお客様と一緒に作り上げていただいたように思います。当時若かった私より、顧客の大半である駐在員さんのほうが遥かに宝石知識が豊富でした。そのためお客様と販売員の立場を越えた関係が構築されていました。商品知識と同時にビジネスマナーも指導していただき、同じ村の住民であり先輩でもあるような、その感覚が同時に味わえました。年に2回、東京で展示会をするのですが、当時のお客さんが来てくださいます。今でも関係が続いていることに誇りに思います。
独立後は、宝石販売の他に雑貨の販売を細々と始めました。きっかけは、宝石店の顧客からの要望に応えていたことが始まりです。本格的にお土産店を展開する前に、帰国時、顧客からリクエストされたベトナム商品を送り届けていたことがありました。そこから、お客様が欲しいものを店に構えることで、さらなる顧客増加を狙いました。そのため、お店のコンセプトとしても当時と変わらないまま「お客様の声を反映させやすい」STAR LOTUSとして歴史を刻んできました。お客様の要望から商品を集め、製造していると、STAR LOTUSお土産店としても名を成すようになりました。
人生の転機
人生のターニングポイント
日本を飛び出したことが一つのターニングポイントですが、それよりもっと重大な出来事がありました。
それは私に独立を決断させる、ある出来事がありました。2012年ベトナムに来て18年経過した頃、日本に帰国中に自転車事故に遭い首を骨折(頚椎脊髄骨折)しました。ベットの上で頭を固定したままの状態で3ヶ月生活し、もうベトナムに戻れないと思いました。医師から、下半身不随になるかもしれないと伝えられていました。このとき、初めて気づかされました。会社、家族にも迷惑をかけてしまった。今まで自分ひとりで生きていると思っていたのですが、「周りに生かされているんだ」と。今の自分が、五体満足で生きていることがなんて幸せなことなことなのだろうか。不平不満を言うのではなく、健康体で生きているだけでも幸せだと。あそこで死んでいてもおかしくなかったのに生かされているのは、まだやり残していることがあると神様から言われていると思いました。この時、私は合弁を解消し、独立を決意しました。私にはまだやるべきことがあると思いました。今の自分からさらにステップアップをすべきだと思い、独立を決断しました。
人生の中で受け取ったアドバイスで印象深いエピソード
「迷ったときには、ときめく方を選びなさい」という言葉が印象に残っています。独立してからずっと応援していただいている方からの言葉です。「相談することは良いことですが、決断も責任もあなたにあります。条件を熟考した上で、ときめく方を選びなさい」と。それで失敗をしても、成功するための失敗で意味のあることだと。このアドバイスが私の指針となっています。
一緒に働くベトナム人とはどうですか?
経営者と社員という超えられない壁があると思います。理解した上で配慮をしながら、経営者としての考えを伝えていかないといけないことがあります。越えられない壁はありますが、企業でありながらも家族でもありたいと思います。スタッフが意見を出しやすい風通しの良い会社を目指しています。100%ではないけれど、叶いつつあると思います。厳しさと優しさを持ち、お互いに適度に刺激を与えながら、温かいお店を目指しています。社員、旅行客、お客様にとって数年後ハノイに帰ってきたら、また来たいと思えるようなハノイのアットホームなお店をベトナム人スタッフと共に作り上げています。
海外進出を考えている方へ一言
すべて自分の責任になります。やった分だけ、返ってくる環境とも言えます。やりたい意思をしっかり持って貫くことが、海外に出るにあたって重要なことだと思います。迷っているのなら、まず出てみて、見ないとわからないことがたくさんあります。日本に比べて、自分を守るのは自分しかいないと、その意思をしっかり持って考えることが大切だと思います。しっかりとした目的を持って海外へ!!
インタビューを終えて
人生の絶望から救ったのは、周りの人の支えだと言う佐藤さんの話がとても印象的でした。支えられていたと気づかせてもらった、そして更なるステップアップを成し遂げている佐藤さんの生きる力に感銘を受けました。一心不乱に生きることと一度周りを見渡すことのバランスをとることの大切さを佐藤さんから学びました。今回はインタビューにご協力いただきまして有難うございました。
取材:土居 由佳(JAC Recruitment Vietnam インターンシップ生)