ベトナム・ホーチミンで働く日本人~Standing BAR【日本酒で乾杯】月森砂名さん~
更新日:2016年12月21日 (取材日:2016年9月14日) / ライター: JAC Recruitment Vietnam
ホーチミン・レタントンのヘム(裏路地)の中、「牛めし屋」さんを入って二階にある日本酒の立ち飲み屋さん「Standing BAR 【日本酒で乾杯】」。各地蔵元の地酒50種類以上を取り揃えており、いつも常連客や、新規の客でにぎわう明るいカウンターバーです。この店をお一人でオープンし、経営されている月森さん。今回はベトナムの生活について、働くことについてのお話を伺いました。
―以前のお仕事について―
Q.ベトナムに来る前はどのような御仕事をされていたのでしょうか?
主に3つのお仕事をしていました。1つ目は、舞台を主に撮影するフォトグラファー、舞台制作やブロデュースを行う仕事。2つ目は、日本文化を発信するため、出身地である奈良の伝統文化を、大学や専門学校に授業の一環として提案し、映像などコンテンツ制作のサポートを行い、交流の場を提供する仕事。3つ目は、私自身、法人を運営するにあたり大変苦労したため、何か力になれればと、女性起業家のためのコミュニティーを主宰し、起業する女性のサポートと交流の場を提供していました。
―Standing BARについて―
Q.Standing BARの方向性について教えてください。
Standing BAR【日本酒で乾杯!】の目的は「ベトナムでの日本酒の普及」です。この店を拠点にして、多くの方々に日本酒の魅力を知っていただき、日本酒全般について知識を深めていただけるよう、酒粕教室を開き、料理教室と同時に杜氏さんをお招きしてお話をしていただきました。さらに「日本酒を使ったスイーツの提案」、「酒蔵見学」、「日本酒について学ぶ機会と場所を作る」、そのような流れへと展開してゆけるようにと計画しています。
開店当時は、「焼酎やビールも置いたほうがいい」「タバコが吸えるようにした方がいい」「利益率が良いからお茶をメニューに加えてはどうか」「メニューに焼き鳥を加えたら?」など、お客様からいろいろとご意見を頂戴しました。今は、日本酒がもっとも美味しく飲める環境と酒肴を提供する、日本酒だけの店というコンセプトを理解していただけるようになりました。最近は、HPをご覧になった近隣諸国からのお客様や、日本から進出したい蔵元さんなども、ちょくちょく訪ねて来られるようになりました。
Q.ベトナムで日本酒を提供するにあたってどのように工夫をしていますか?
「日本酒の風味の違いをどのように伝えるか」、「どのように自分好みの銘柄を見つけてもらえるか」、飲み比べセットをメニューに加えるなど、日々試行錯誤しています。また日本酒は関税が高いので(商品価格は日本価格の約2.5倍になります)、仕入れに工夫しています。
―働くということ―
Q.働く上で意識していることはありますか?
次のことを心がけています。
- 自分のやりたいこと、苦手なことをきちんと把握していること
- 人と比べるのではなく、マイペースを大切にすること
- 日々、自分を冷静かつ客観的に見ようとすること
- ブレない軸をもつこと
Q.働くうえで大事なことはなんでしょうか?
すべては人様との「ご縁」だと思っています。今ここにあるのは、出会ってきた人たちとのご縁の延長線上にあります。大切なのは “経験した中で、どのような人と出会い、その出会いをどのように育むか、そして「誰と一緒に」仕事をするか”でしょう。
また、ビジネスは「スピード」が肝心だと感じています。ちょうど昨年(2015年7月~3ヶ月間)は法人設立、融資、ベトナム移住、店舗設立、助成事業の遂行、手術など過密スケジュールや次々に起こるトラブルを、必死で片付けていました。迷ったり、くよくよしている暇もありませんでした。今スケジュール帳を見直してみると大変だったなと思います。一つ一つ乗り越えられたのもひとえに、サポートしてくださった、日本及びベトナムにいらっしゃるみなさまのおかげです。“本気で頑張っていると、手を差し伸べてくれる人たちがいる”ということを、身をもって経験しました。
―ベトナムでの生活―
Q.環境が変わって苦労したことをどのようにして対策していますか?
蚊には悩まされました。ひどいときには2、3日に100か所以上、刺されたこともあります。刺されたらすぐに薬を塗って、かかないようにしています。網戸がないので窓にレースのカーテンをしたり、蚊取り線香を炊いたり、汗をかいたらすぐにシャワーを浴びる、などの対策をとっていると、最近はあまり刺されなくなりました。
店の設立当初は大口の現金払いが多く、日本からの送金は手数料が高いので、大金を持って歩かなければなりませんでした。ベトナムはひったくりが多いと聞き、肩掛け式やトートバッグをやめて、靴もスニーカーにしました。また、道を歩く時は考え事をせず、周りに注意しながら歩くことに集中し、歩きながらのスマホ操作はしないようにしました。
年中暑いですので、体への負担も大きく、暴飲暴食、睡眠不足、過労などを極力避け、無理をしないことを心がけています。日本なら同時にいくつものタスクをこなしていましたが、「ながら」作業を止めて、一つずつ、集中して行うようにしています。
Q.ベトナムでの生活はどうですか?
ベトナムは活気があって楽しいです。ホーチミンでは、日本の商品がほとんど揃うので、生活や仕事環境を東京にいる頃と同じように整えました。そのため、ギャップを感じず仕事ができ、快適に暮らすことができます。そして、東京では首都圏各地に散らばっていた友達、知り合い、仕事の現場も、ホーチミンでは、山手線四分の一ぐらいの圏内に収まっているため、「では十数分後に集合しましょう!」ということも可能です。そして、休みの日や時間のある時には、食事や買物、散策などで「リアルなベトナム」を満喫しています。
Q.ベトナムに来て月森さんの変化はありましたか?
あまりイライラしなくなり、気が長くなったように感じます。また何かしなくちゃという強迫観念や焦りがなくなりました。
Q.生活するうえでベトナムの魅力について教えてください。
人々は人懐っこく、表情が豊かです。仲良くなれば、とても親切で面倒見が良いです。活気があって若い街なので、これからの伸びしろがまだまだあります。また、食文化も豊かで、文化的、歴史的発見・探訪が期待できます。ASEANの玄関口で、近隣諸国とは地続きなので、まったく違う顔を持つ隣の国にすぐに行き来できます。
―今後の展望―
Q.今後の展望について教えてください。
現在はまだベトナム人消費者に販路を広げるには至っていません。そのため日本からの進出蔵元や関係機関、現地インポーター、サプライヤー、販売店との協働で進めてゆけたらと考えています。しかし、自分の意志とは関係なく、明日はどうなるか分からないのが、海外情勢と厳しい現実です。その時の進捗具合によって、次の展開を決めようと思っています。
Q.ベトナムで働きたい人にアドバイスをお願いします
日本もベトナムも違いはないと思っています。「働く」という切り口で考えているのなら、日本でも出来ないことをベトナムに来たからと言って一朝一夕に出来るわけはありません。社会人として最低限必要なこと、ビジネスの基本が出来ていない人は、海外に出ても低賃金で働かされます。それは日本人でもベトナム人でも同じです。今後はロボットも参戦して、格差はますます広がるでしょう。
一方で、日本で出来なかったことが、ベトナムでは出来るかもしれないのが、起業の面白いところです。人間力をアップすれば世界中どこに行っても通用します。志高く「自らの仕事をデザインできる人」を目指してください。
インタビューを終えて
ここのStanding Bar【日本酒で乾杯】は、私の思い入れのある場所でもあります。店を入ると気さくで明るい月森さんが迎えてくださいます。いつも親身になって話を聞いてくださり、的確なアドバイスを下さいます。「その土地土地で自分の可能性をどう引き出していくかが重要」とアドバイスを頂き、海外で働きたいだけではなく、なぜその土地で働くのか、そこで何がしたいのかと考え抜くことが必要であると痛感しました。
聞き上手で朗らかな月森さんとお話ししながら、おいしい日本酒を飲むことが出来るStanding BAR【日本酒で乾杯】へぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
取材:9月14日高山木実(JAC Recruitment Vietnamインターン生)