ベトナム・ホーチミンで働く日本人~ OFFICE ZIPANG 小谷尚孝さん~
更新日:2016年9月8日 (取材日:2016年8月25日) / ライター: JAC Recruitment Vietnam
おいしい食材とお弁当を、ベトナムで忙しい日々を送る日本人に届けたい。
わずか23歳でベトナムへ渡り、宅配食材とお弁当のお店「OFFICE ZIPANG」を立ち上げた小谷尚孝(こたにひさのり)さん。今日に至るまでの道のりは、決してやさしいものではありませんでした。それでもベトナムに居続ける理由は何なのでしょうか。お店のこと。家族のこと。これからのこと。本音で語って頂きました。
ベトナムで宅配弁当を
Q.「OFFICE ZIPANG」を立ち上げたきっかけは何だったんでしょうか?
元々、鶏肉を扱う仕事をしていたんです。だから、自分の強みは「これだ」と。始めからいける!と思っていたわけではなくて、自分の強みを活かせる仕事をしていたらたまたま現地のニーズに合っていた、というわけなんです。当時、日系の飲食店はまだまだ少なくて、かなりシビアな状況でした。20件あったら半分は次々潰れていく、という感じでしたね…。ベトナムに駐在する日本人も今ほど多くなくて、マーケットの規模は今よりずっと小さかったと思います。
Q.他店には負けない、「強み」はありますか?
やっぱり「(経営が)長い」ってところですかね。ただ、今は長いっていうだけじゃやっていけない時代なので、こだわりを持つことが大事だと思います。うちの場合は「自分がおいしいと思う食材」「自分の子どもにも安心して食べさせられる食材」を提供したいと思っています。お店で扱っている食材をお弁当にも使えるのでロスが少ないというのもいいところの1つですね。
偶然が重なったベトナム行き
Q. 日本大学芸術学部をご卒業なされていますが、そこからどのような経緯でベトナムに渡られたのでしょうか?
芸術学部の中の演劇学科に通っていたのですが、いざ卒業となったとき、役者で食えるようになるのは、どうも僕には無理だなぁ、と(笑)そこで、大学の先生に紹介していただいたテレビやイベントの制作会社に就職することにしました。でも、裏方さんの仕事はめちゃくちゃきつくて厳しい!
「表」が駄目なら「裏」でなんてそんな甘いものではなく、1年ほどで辞職を願い出ることに。その旨を親に伝えると、ちょうど今、父の会社でベトナムに駐在してくれる人間を探していると言われたんです。
Q. 当時(約20年前に)、現在より全く発展していなかったベトナムに駐在することに抵抗はなかったのですか?
そもそもベトナムについて何1つ知らなかったため、抵抗も何もありませんでした。唯一あったイメージは、映画で見ていたベトナム戦争ぐらいですかね。ただ、その時期に漠然と海外に行きたいなと考えていました。そんなときに、偶然父からベトナム駐在の話を持ち掛けられたので、職も確保できるし、海外にも行けるし、こんなチャンスなかなかない!と思いました。そのため、ベトナムに行くことに関してはそこまで深く考えずに決めました。
ベトナム人との関わり
Q. 奥様はベトナム人とお伺いしました。馴れ初めは何だったのでしょうか?
当時、友人の奥さんが、ある日系企業の現地社長をしていたのですが、そこの社員として雇われていたのが妻でした。その会社が副業で経営していたバーによく仲間内で呑みに行っていて、そこで経理スタッフとして働いていた妻と出会ったのが最初のきっかけだったように思います。
ただ、その当時は全く親しくありませんでした。でも数年後、突然彼女から電話がかかってきたんです。いやーびっくりしましたね(笑)電話の内容は忘れてしまいましたが、そこから一緒に食事に行くようになり、気づいたら結婚へと繋がっていきました。
Q. すごい出会いですね! そして現在は奥様とお子さん2人と暮らされていますが、ご家族とはベトナム語でコミュニケーションをとられているのですか?
いえ、僕はあまりベトナム語が得意ではないため、日本語が主ですね。
ただ、子供たちは僕と話すときは日本語ですけど、学校ではベトナム語なので基本はベトナム語を使用することのほうが多いです。
Q. ベトナム人はどういう人柄だとお考えですか?
この質問をされると、よく「ベトナム人は、お金が絡まないと世界一優しい。逆にお金が絡むと世界一厳しい。」というフレーズを使うことがあります。普段は明るく気軽なベトナム人も、お金に関しては非常にドライでシビアな一面があります。プライベートでどれほど仲良くなったとしても、「これはこれ、それはそれ」の切り替えぶりは、日本人よりもキッパリしているような気がします。
Q. ベトナム人と働くうえでお金は必ず関わってくる問題ですが、日本と全く考え方が違うことは大変ではないですか?20年ベトナム人と関わってきて嫌気がさしたことはないのでしょうか?
確かに20年の間で信頼していたベトナム人に金銭面で裏切られたこともありましたが、そこまでベトナム人が嫌い!とはなりませんでしたね。むしろ自分のやり方が甘かったんだと思います。
日本とは全く違う民族性や歴史背景がありますから、日本では咎められるような問題も、ベトナムでは当たり前に行われていたりします。そのため、自分の考えを押し付けすぎない、期待しすぎない、そして甘えすぎないことが大切かなと思います。
小谷さんのこれからとアドバイス
Q. ベトナムに来ていなかったとしたら、現在何をしていたと思われますか?
どこかの国には行っているのかもしれません。日本できっちりサラリーマンをしている自分が想像できないんですよね(笑)
Q. では、日本に帰りたいと思ったことはないのでしょうか?
いやー、もう20年もベトナムにいますからね。自分自身ベトナムに染まってきている部分があるため、逆に日本に違和感を覚えてしまうんです。きちっとしすぎてるなーとか。また、ベトナムと同じように、日本も20年の間に色んなことが変化していますから、今からその環境に順応するのは大変だと思います。
ただ、自分自身ベトナムと日本を繋ぐ存在として、どちらの進化のスピードにもついていきたいと思っています。
Q.小谷さんのように「ベトナムで会社を立ち上げたい!」と思っている方にアドバイスをお願いします!
うーん、駐在という形で来るなら日本に戻れるのでいいのですが…。日本で言われているほど「甘くはない」というのが現実だと思います。お店が軌道に乗るまでの空白をどう埋めるのか、そこを乗り越えるためのガッツとノウハウがないとやっていけない。「起業してすぐに黒字が欲しい!」というのではなく、余裕を持ってとりあえずやってみるというのをオススメします。やってみてダメなら、傷が浅い内にパッと店を畳んで次を考える、くらいの身軽さが必要かもしれませんね。
Q.「OFFICE ZIPANG」をこれからどうしていきたいとお考えですか?
今はちょうど過渡期だと思っているんです。時代が変化する中で、どうやって自分も変化に取り残されず、生き残るかがこれからの課題です!そのベースとして、「食」を通じて日本とベトナムを繋ぐ、という役割は守っていきたいですね。
インタビューを終えての感想
ベトナム在住の日本人に人気の「OFFICE ZIPANG」。そこにはオーナーとして、一家の大黒柱として、日本人として、日々奮闘する小谷さんの姿がありました。また、ベトナム人のように明るく気さくな小谷さんは非常に親しみやすい方でした。
自分の元いた場所と比べて「あれがない、これがない」と悲観するのではなく、自分の今いる場所で自分のやりたいことや望む生活を叶えるためにはどうしたらいいのかを考え、自ら行動していける強さを学びました。小谷さん一家の幸せと「OFFICE ZIPANG」の益々のご活躍を心よりお祈り申し上げます。小谷さん、お忙しい中貴重なお話を頂き、ありがとうございました!!
取材: 8月25日 阪口 史歩 山本三里香(JAC Recruitment Vietnam インターンシップ生)