ベトナム・ハノイで働く日本人~丸紅ベトナム 相良さん~
更新日:2016年8月8日 (取材日:2016年7月18日) / ライター: JAC Recruitment Vietnam
今回は丸紅ベトナムにて、社長を務められている相良さんにお話を伺いました。
新卒で丸紅に入社して以来、電力部門に所属し海外経験も豊富な相良さんが、普段のお仕事で大事にされていることや、外国で働く際に意識されていることなど、非常に貴重なお話を聞かせて頂きました。ぜひご覧ください。
目次
Q まずはご経歴を教えてください。
丸紅に入社し、様々な事業部門がある中で僕は電力を取り扱う部門に配属されました。ここは発電所を建設したり、発電所でできた電気を販売したりするところです。出張で海外へ行くことは非常に多かったのですが、駐在は1989年にミャンマーへ行き3年半ほど過ごしたのが初めてでした。
ミャンマーから帰国後は東京本社で長らく電力部門の海外の仕事をしました。3年前に生まれ故郷でもある九州支社に異動し、2年ほど大いに博多中州をエンジョイした後、去年の4月からベトナム・ハノイに、2回目の海外駐在として赴任しました。
Q 日本ではどの様なお仕事をされていたのですか?
東京本社では主に、石炭火力や水力、ガス、再生可能エネルギーなどの発電所を建設する上での意思決定や採算管理を行っていました。
実は、東京にいたときから1/4くらいはベトナムの仕事をしていました。ベトナムでは90年始めころから外国からの投資や援助、ODAなどが始まり、仕事が増えてきておりました。当時から出張で来越することがよくあり、ときには数ヶ月から半年くらいの長期出張もありました。
Q その後、ベトナムへ赴任されてどの様なお仕事をされていますか?
丸紅はベトナムでは大きく2つの分野の仕事をしております。コモディティといって食品や穀物、化学品などの商品を取り扱っている分野と、発電所やセメントプラント、紙プラントなどのインフラを取り扱っている分野です。発電所に関して言えば、丸紅はベトナム国内に発電所を10ヶ所ほど建設しました。現在建設中のものもあります。僕は社長という立場なので、全体を管理する立場ですね。
ベトナムへは何度も訪れていたわけですから、ベトナムについては一定の知識があり慣れていたつもりでした。ところがいざこちらに駐在してみると、駐在員として不可欠なベトナムの法律や歴史、政治、文化などの知識が不十分であることを痛感させられました。目下昼夜日々勉強中です。
Q 普段お仕事をされる上で大事にされていることを教えてください。
僕らの仕事は特有かもしれませんが、プロジェクトひとつに長い時間がかかります。
発電所建設のプロジェクトですと、最初に地図の上で「このあたりに発電所が必要ではないか?」というところから始まって建設工事が完工するまでだいたい10年から15年くらいの歳月がかかります。場所は具体的にどこがいいか?燃料は石炭がいいか、ガスがいいか、発電の規模は?資金調達は?などが決まるまで、環境調査なども平行して行われるため数年がかかります。その後通常入札を経て受注が決まります。入札が受注への山場ですが、入札後も受注確定するまでの間、客先との入札内容の確認手続きや、交渉が延々と続きます。われわれの説明や返答如何で客先の評価は上がったり下がったりします。山あり谷ありで、時には掌中にしたと思っていた案件するりと手のひらからこぼれそうな局面に遭遇します。そんなときに自分に言い聞かせる言葉は、”あきらめなければ終わりはない”です。そうやって何度も難局をくぐりぬけて受注できました。
受注後建設工事の完工まで3~4年くらいかかります。長いプロジェクトなので実際に発電所が完成したときは本当に感動します。そして自分の仕事にささやかな誇りを感じます。
Q 普段、社員の皆さんをマネジメントされる上で意識していることを教えてください。
僕は人が自分の思い通りにならないのは当たり前だと思っています。人それぞれ価値観は違い、自身の考えがあるので、相手が自分の期待通りにやってくれなくてもいちいち腹を立てないようにしています。
また商社には多い形だと思うのですが、多岐にわたる仕事をやるために、それぞれの分野の専門の駐在員が来ており、その人たちと共に仕事を進めて行きます。まず彼らがやりたいと思っている仕事を優先し支援します。彼らが自身の視野や考えで仕事に取り組んでいるとき、僕の視点の考えやネットワークや情報をもとに、違った角度から助言することで、見落としていたところや手の届かなかったところに仕事が広がっていけばよいと思います。
ある部署の人から見ると縁の遠いお客さんだと思ったら、違う部署ではとても親しくしているようなこともあるので、両者を繋げるだけでスムーズに進んでいくことが良くあります。そして結果的に丸紅の仕事が大きく広がっていくことがあります。
Q 今までたくさんのお仕事をされていますが一番印象的だったことを教えてください。
入社数年目の初の海外駐在でミャンマーにいたときの話しですが、山奥の水力発電所の修理が必要になりました。この発電所が動かないと人々の暮らしが成り立たないので、なんとか修理しなくてはいけないのですが、当時のミャンマーは軍事政権が発足したばかりで、あまり治安が良くなく、山奥には少数民族のゲリラ活動が続いているような状況でした。日本からメーカーの方に即刻修理に来てもらわなくてはいけないのですが、その方々の生命が危険に晒される可能性があったので、労働組合からストップがかかり水力発電所現場に行くことができませんでした。
そこで僕が、発電所の現場に行って本当に危険かどうかを検証することになりました。もちろん恐怖はありました。身の回りをミャンマー軍に護衛されながら現場を見に行くと、ゲリラ活動が起こっていたのは、発電所から離れた地域で現場周辺は安全であることが確認できました。このことを日本へ報告をした結果、労働組合やメーカーの人が納得してくれて、現場に出張し無事に修理を終え、ミャンマーの皆さんに電力を届けることができました。「お前が体を張って調べてきてくれたから、みんながくることができた。」と声を掛けていただき、「怖かったけど行ってよかった」と心から喜びを実感しました。その発電所は今でも順調に動いております。
あのころのミャンマーの生活環境は今とは比べ物にならないくらい悪かったんですが、若い僕は、妻や幼い子供たちと元気で楽しく過ごしました。そしてたくさんのミャンマー人や日本人の友達が出来、今でも大切にお付き合いをさせていただいております。少々厳しい環境のミャンマーで同じ時間を共有したことが深い絆になり、会社の違いなど関係なく、数十年経っても付き合っていける友達が出来たことを本当に嬉しく思います。
Q これから挑戦していきたいことはありますか?
ベトナムは9000万人の人口があり、ベトナム人は頭が良くて手先が器用で将来性があると言われながらも、現在は主に縫製業や加工産業など安い労賃を強みにしたビジネスが主流です。付加価値が低いためベトナムの利益が少ないので、この国がこの先もっと豊かになっていくために産業レベルの底上げが必要だと思います。僕らが今手掛けていたりこれから始める仕事が、産業の底上げにに貢献し、ベトナムの発展に役立つならば、素晴らしいことだと思います。
Q インタビューを終えて
インフラ事業などの規模の大きなプロジェクトの仕事のお話はもちろんですが、とても朗らかで笑顔を絶やさず仕事に対する熱い思いを語っていただいた相良さんのお人柄が非常に印象的でした。
相良さん、お忙しい中非常に貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。
取材2016年7月18日 齊藤陸(JAC Recruitment Vietnam インターンシップ生)