ベトナム・ホーチミンで働く日本人~漢の食材店木村屋 木村勇雄さん~
更新日:2017年1月11日 (取材日:2016年11月17日) / ライター: JAC Recruitment Vietnam
現在、電気の制御回路の会社の経営をしながら、ベトナム在住の日本人の間で口コミで広まり、数多くの日系レストランにも食材を卸している大人気の「漢の食材店木村屋」で食材の仕入れ、加工、配達まで行っている木村勇雄さん。ベトナムに来て7年になり、ベトナム人の奥様とも結婚されて、現在2児の父として、毎日ホーチミン中を駆け回り食材を届けている木村さんに木村屋を始めたきっかけや現在のお仕事についてお話を伺いました。
きっかけは月に1度のホームパーティ
どのようなきっかけでベトナムに来られたのですか?
私は食材店をオープンしようとしてベトナムに来たわけではなく、父親の電気の制御回路の会社のベトナム法人の立ち上げのために訪れました。現地で会社を立ち上げ、部下を動かすには、ベトナム語の勉強をしなくてはならず、1年間ホーチミンの大学に語学を学ぶために通いました。卒業後の2010年に1から会社の立ち上げを行い、6年間が経ちました。
食材店を始めたきっかけは何だったのですか?
ベトナムの現地法人の仕事は、本社の案件を扱っていたので日本とのやり取りで完結することに面白さを感じられませんでした。その傍らで、もともと料理が好きだったこともあり、趣味で友人を集めて、皆に料理を作って振る舞うホームパーティを月に1回のペースで開いていました。それをやっているうちに、友人から「そんなに料理が好きだったら食材を売ればいいじゃない?」と言われたことがきっかけで食材店を始めました。
食材店はどのような形で始められたのですか?
始めたときは、大きくビジネスとしてやるつもりはなく、資本もなかったので、とりあえず冷凍庫を一つ準備し、長持ちするものということで、真空パックで豚肉のスライスを売り始めました。その後は、解凍してすぐに使えるカットした鶏肉やレストランに提供している串モノなどの加工、生産も行いました。すると、ありがたいことにお客さんが口コミで増え、生産が足りなくなり、さらに設備を増やし、人材を採用しました。オープンして1年半経った今は、従業員4人、業務用冷凍庫が14台、業務用冷蔵庫が2台、その他の機器も充実させて、小さいですが加工場もできました。
ベトナムでの食材店経営について
食材はどのように仕入れられているのでしょうか?
食材は基本的にベトナムの市場で自分の目で良いと思ったものしか仕入れないようにしています。始めた頃から毎朝5時に起きて、市場に行って食材を探しますが、良いものがなかった場合、その日の仕入れが無いときもあります。必ず自分の目でみて良いと思ったものしか仕入れていません。どんなに忙しくても仕入れだけは、自分ですることにしています。今では市場のお店の人と顔なじみになって欲しい食材が入ったら連絡してくれるようになりました。
早朝から市場に行くということですが、1日のスケジュールを教えてください。
市場から帰ってくるのが7時で、8時半に電気の制御回路の会社でミーティングを行います。その後、食材店をだいたい10時から始めます。まずは、従業員たちに今日買ってきた食材の説明と生産加工予定を伝えてから、注文の受付と在庫の管理をします。お昼からは配達に行きますが、食材を詰め込めるだけバイクに詰め込んで、すべて配達し終わったら一旦戻って食材をまた積み込み、配達に行って、の繰り返しです。最終配達が19時頃に終わるので、それから食材を卸しているレストランなどに行って在庫の確認などをします。
注文は一日多いときで25件受けることもあるので、そのような場合はスタッフにもお願いして配達しています。注文は、Facebook、電話、SMS、LINEで10時から13時まで承って、当日配達しています。
どのようにお客さんが増えたのでしょうか?
広告を出したこともありませんし、Webサイトの開設の方法も知りませんでした。最初は、友人が食材店のFacebookページを開設してくれて、そこからメニューの紹介や注文を受けることで徐々に在越日本人の方々に知ってもらえるようになりました。もともと周囲の仲の良い友人に買ってもらうことが目的でしたが、今では口コミだけで自分のお店のことを知っていただけるので嬉しいですね。
ベトナム人従業員の採用や育成はどのようにされたのですか?
採用は、やる気だけを基準にして素人を面接で選びました。まずは、床で作業しないこと、手洗いは必ずすることなどの、日本では当たり前のことから教えていきました。そこから、包丁の研ぎ方から肉の切り方、魚の解体の仕方などを教えて、今では9割の食材は私がいなくても彼らだけで、処理・加工することができます。採用時にあえて、素人を選んだのは、自分のやり方を忠実に再現して、同じ品質の食材を作って欲しかったからです。私が好きで始めたお店なので、食材の切り方から始まり、調理法、味付けまですべて自分の色でやりたかったんですよね。これは今でもブレないこだわりです。
1年半前に始められて大きな失敗はありましたか?
冷凍庫が壊れて中の物を全部捨てないといけなくなったことは何回もあります。そのときは、1回落ち込みますが、頑張ろうとまた1からやります。電気設備なので壊れることはあるので、それは仕方ないですね。
メニューを考える上で気をつけていることはありますか?
やはり、人は同じものを食べていては飽きがきてしまいます。ずっと売れていた商品でも売上が落ちてきたら生産量を減らしてもっと新しい食材を作っていく。そうすると、お客さんもどんどんと商品が変わるのだったら面白いと感じていただけるので、常に新しいメニューを考えているようにしています。
無理せず楽しんで仕事をする
現在はどのような想いで食材店を経営されていますか?
“楽できる食材”を提供したいです。日本人の奥さんは、いきなりベトナムに来た中で、右も左も分からない、言葉も分からない、スーパー行ってもどれがいい食材かも分からないと、大変だと思います。そのような状況で、朝お弁当作るときに、朝入れて、お昼ごろには解凍されて食べられるような食材だったり、ちょこっと油で揚げてお弁当に入れられるようなものだったり、少しでも時間と手間を節約してもらえたら嬉しいですね。
今一番のやりがいは何ですか?
「おいしい」と言ってもらえることが一番。あとは、食材を使うことで、少しでも助かる、楽できると言っていただけると嬉しいです。お弁当の食材として人気なのが、ミートボールなのですが、食材を届けているお母さんから「うちの子ども、ミートボールが大好きなんです」と聞いたり、お家に配達に行った時に、「ああ、ミートボールのおじさんだ!」とお子さんに叫ばれるのも嬉しいですね。(笑)
一番大切にされていることは何ですか?
味と品質はもちろんですが、配達時のコミュニケーションも大切にしています。お客さんと対面でお話して、そこからいただいた意見を商品開発の参考にさせていただくこともありますし、何でも意見を言ってくださるのは嬉しいですね。自分自身に関しては、「楽しんで仕事をすること」、「自分のペースを崩さないこと」です。自分のできる限界を見極めて、足りない人手はきちんと補うことで結果的に自分の納得できる品質を維持しています。
お休みの日は何をされているのでしょうか?
今でも日曜日には友達を集めてBBQをしています。自分が食材を扱っているので、食材はたくさんありますし、皆が集まれるきっかけにもなっています。あとは、家族と過ごしています。6年前に大学在学中に知り合ったベトナム人の妻と結婚して、今は子どもも二人いますが、普段は忙しいので、一緒に過ごせる時間は大切ですね。
これからやりたいことやビジョンはありますか?
事業の拡大というよりは、もっと便利に食材を使っていただきたいと考えています。そのために、食材のアンテナショップを作りたいです。配達だけだと食材をたくさんの方に届けるには、やはり限界があるので、外出ついでにふらっと寄れて気軽に食材を買って帰れるようなそんなお店があったらいいなと考えています。あと、世界保健機構が世界食糧計画にも採用している食材のひとつ「モリンガ」という栄養素の高い植物の販売を行っています。こちらも新しいベトナム土産として多くの人に手にとって欲しいです。
ベトナムで働きたい方にアドバイスをよろしくお願いいたします。
思っているだけでは何もならないから、とにかく行動に移す。それでダメだったらダメだったで戻ればいいと思います。とりあえず、飛び込んでみて自分で1からがむしゃらに動いてみる。「なんとかなる」とよく言われていますが、動く気がなかったらなんともならないと思います。働かないのにご飯は食べられませんしね。自分の経験したことが無い分野でも飛び込んでみると、そこから得るものは必ずありますし、ましてや海外だからまた違う感覚があると思います。しかし、やってダメだったときの引き際も大切です。あとは、ベトナムを下に見る考え方で来るのなら、来てほしくないですね。今のベトナム人は意欲もすごいですし、学ぶべきことがたくさんあります。私も毎日ベトナム人から勉強していますし、自分の足りないところは彼らと助け合って生活しています。
木村屋Facebookページ
電話番号: 093 345 56 92
インタビューの感想
1からベトナム語を学び、今では在越日本人の間で欠かせない食材店を奥様と二人で経営されている木村さん。徐々に規模も大きくなって、生産量も増えていますが、自分のこだわりは決して曲げず、なぜ人気なのか納得することが出来ました。小1時間のインタビュー中にも、注文の電話が何件も入ってくるほど、お忙しい中、本当にありがとうございました。
取材:11月17日 白戸 崇 (JAC Recruitment Vietnam インターンシップ生)