ベトナム・ハノイで働く日本人~JICA 笠原久美子さん~
更新日:2017年2月15日 / ライター: JAC Recruitment Vietnam
JICAのベトナム事務所にご勤務されている笠原久美子さんにインタビューをしました。JICA入社をどう決断したのか、また入社後どのような活動をされてきたのかという話を聞かせていただきました。JICAにご興味のある方は、是非ご覧ください。
JICAに入社するまで
JICA前はどんなことをしていましたか?
大学卒業後2年間民間企業に勤務し、その後、大学院で国際公共政策研究科にて国際人権法を学び修士号を取得しました。修士課程2年生の時に社会人採用でJICAに就職をしました。院生の時、JICAの研修員受け入れ事業に、通訳等研修のコーディネーター(研修監理員)として非常勤で働いていた時にJICAの仕事や職員に触れたのがJICAで仕事をしたいと思ったきっかけです。
興味を持ったきっかけ
JICAの研修員コーディネーターとして通訳や途上国の研修員、日本の企業の方々と仕事をしている間に、途上国の人と日本人を繋ぐ仕事が純粋に楽しいと感じました。当時、ベトナム、ラオスなどアジアだけでなく、アフリカ、中南米の国々から所謂公務員の人達が日本の技術・知識を学ぶために日本の省庁や民間企業で研修を受けていました。その研修員たちと、国際協力の現場で通訳、研修旅行を共にしているうちに、各国の経済・社会状況、生活、日本の技術を通じた人的交流の機会が沢山あり、JICAの仕事の一部に触れることができました。
なぜJICAにたどり着いたのでしょうか?
大学院に通っているときに国際人権問題を研究していたのですが、ボン(ドイツ)の国連ボランティアに、インターンとして仕事をする機会がありました。その時、特に日本人の国連職員の方と接するうちに、自分が働きたいと考えている場所について突き詰めて考え、日本を拠点として途上国の発展に協力したいという生き方が明確になりました。そこで、辿り着いたのが政府開発機関の実施機関、JICAでした。当時はまだ学生でしたから、国連のインターンシップに参加して得られたのは、仕事の経験よりもむしろ、国連職員と実際に話を聞いて自分の考え方に照らし合わせることで、これまで思い描いていた仕事と生き方が具体化され、目標が明確になることです。
JICAに入社後
日本のJICAに入社して、どんなことをしていましたか?
JICAはODAの実施機関で、技術協力、有償資金協力、無償資金協力を一元的に実施していますが、その中でも私は、主に、日本の技術や制度を途上国に伝える、技術協力プロジェクトを計画、実施、評価する仕事に従事していました。具体的には途上国の地方自治の能力強化や、女性のエンパワメント支援で、アフガニスタン、カンボジア、ホンジュラス等の国々を担当し出張もよく行きました。その後、子供2人の出産、育休を取り、青年海外協力隊事務局、研究所を経て、ベトナム事務所勤務となりました。また、個人的には大学院の博士後期課程に入学し、人間の安全保障や司法制度改革と人権の保護について研究もしていました。
なぜ、ベトナム?
アジア地域を希望していて、異動先として、事業規模の大きいベトナムを第一候補に挙げていました。比較的治安が安定しているため、海外での仕事と家庭を両立させる国としては、良い国だと思います。
ベトナムJICAでは、どんなことをしていますか?
最初の2年間は、経済班でベトナムの国営企業改革や不良債権処理等の経済分野のプロジェクト担当をしていました。ベトナムの経済成長率は約10年前のベトナムに比べ、ここ5年は、インフレは安定しているものの、経済成長率は低下しつつあります。さらなる発展と成長を維持するには、生産性、経営効率の低い国営企業を株式会社化、民営化させ、民間企業が公平に競争できる場を確保することが重要です。かつて、日本が行った国営企業の民営化や、バブル崩壊後の不良債権処理の経験をベトナムに学んでもらい、日本人専門家とベトナムのカウンターパートと共にベトナムにおける問題を解決できるよう日々考えてきました。
しかし、ご承知のとおり、日本の教訓や方法がそのままベトナムに適用されるということはありませんし、ベトナムの政治体制やガバナンスも考慮しなければなりません。一番苦労したことは、ベトナム側のコミットメントとリーダーシップをどうひきだすのかということです。日本側の提案には、ベトナム側は異口同音に問題の重要性について話し合うのですが、実際に誰が責任を持って実施するのかという話になった時に、合同会議を開催することさえ、合意が困難になります。特に、マクロ経済の課題解決には、ベトナム側のハイレベルのリーダーシップが欠かせません。関係機関(職員)の能力強化というボトムアップ支援と並行してハイレベルからのコミットメントを引き出すことに、試行錯誤を重ね何度もカウンターパートと協議してきました。ベトナム側に、改革の実施にはベトナム政府内での協力がいかに大切か、かつ、その必要性を理解してもらうことに腐心しています。日本側としては、日本の過去の経験から得られた教訓や提言についてセミナーを開催し、専門家によるアドバイス、日本での研修等様々な方法で協力を行い、それをベトナム側が実行に移せるように促しています。
大学の専門(国際人権法)とJICA(経済班)では分野がかなり違いますが、どのように勉強していたのですか?
経済分野、とりわけ国営企業改革や不良債権処理の事業については、これまで担当をしたことがなかったので、赴任してから日本から派遣されている専門家に教えていただいたり、経済のジャーナルを読んで理解することから始めました。JICAの中でも金融セクターについて専門知識を持った人が限られていましたし、毎日が勉強でした。正直最初の1年間は1週間が飛ぶように過ぎ、毎日予期せぬことが起こり、対応に必死だったような気がします。2年目になると段々と問題の所在や原因が見えてくるようになり、自分から問題に対応していく方法がわかってきました。特に数か月にわたって実施が困難だった担当省庁の副大臣や国家銀行の副総裁との重要な面談が実現した時は、本当に嬉しかったですね。プライベートの時間はほとんど無く、休日でも勉強をする日々でしたが、上司やナショナルスタッフからは、経済やガバナンスについてのアドバイスを多くいただき、とても感謝しています。
現在はどんな仕事をしていますか?
現在は、同じ事務所の総務班で、スタッフの募集・採用、評価等の人事、労務、日本から派遣されている専門家の支援、安全管理や総務全般の業務をしています。最近は、ナショナルスタッフの人材育成や能力向上に注力しています。経済班でプロジェクトを担当していた頃はよく知らなかったナショナルスタッフについて知ることができますし、事務所全体の動きや働き方について考えるのはまた新しい経験です。女性スタッフが多く産休も頻繁にあるので、事務所に適材適所な人材配置を行うにあたり、採用面接一つをとっても新しい発見があります。これからは、スタッフのインセンティブを高めるために、どのような研修が彼らの能力向上に繋がるかを検討しています。赴任期間中に、事業と総務両方の業務を経験できて、有難く思っています。
ベトナムスタッフを統括する立場として感じること
日本でも同じかもしれませんが、時々間違っていても非を認めない人もいますので、責めるような言い方ではない方法で、間違いがあった場合は気づいてもらえるよう直接指摘するように心がけています。日本では遠慮しがちですが、ベトナムではコミュニケーションとして、問題があった場合は指摘した方が良いと思います。ベトナム人スタッフによると、ベトナム人同士では日本よりもストレートに話し合っているようです。また、これは日本人が心配しすぎなのかもしれませんが、何かイベント等を開催する際に、詰めの甘さを感じることがありますね。多少の摩擦はあったとしても、お互いの国の生活や文化を知り合うことから距離が縮まると思います。日頃から食事を共にしたり、家族の話等談笑することだけでも、とても仕事がやり易くなります。
印象深い言葉
今までの人生での印象深いアドバイスエピソードを教えてください。
“The world is your oyster.” シェイクスピアの言葉で、世界はあなたのものという意味です。学生時代に留学していた頃、イギリス人の友達が教えてくれた言葉です。求めれば何でもすることができ、どこにでも自由に行くことができる、人生はあなたの思うままという意味ですね。学生の頃、世界の国の人とつながりを持ちたいと思っていた時期だったので、何か決断するときには、背中を押されました。この言葉を聞くと、いつでも世界に飛び出していけそうな気がします。
休日はどう過ごしていますか?
最初の1年間は週末も仕事をしていました。最近は、子供の習い事(バレエ等)について行くことで、子供との時間を大切にしています。また、平日はなかなか会えない子供のお母さん方との交流や情報交換も楽しみの一つです。私自身はテニスの個人レッスンを受けています。個人レッスンというと優雅に聞こえるのですが、実際は30分間動き続けて休憩無しなのでなかなかハードです。それでも、集中することでリフレッシュできるので、翌日からは元気に仕事に向かえます。他にも、フーコック島やホイアン等旅行にも出て、赴任期間中にできるだけベトナムを知りたいと思っています。
ベトナムでの子育てはどうですか?
ベトナムではメイドさんを雇えることがとても便利だと思います。日本でメイドさんを雇うのはコストもかかりますし現実的ではないですよね。こちらでは夕食も作ってもらっていて、子供の為に食生活も規則正しくできますし、普段の生活ではかなりメイドさんに助けて貰っています。一方、日本のように学童や延長して児童の面倒を見て貰えるようなシステムがベトナムには無いので、学校の夏休み等長期休暇は困ることがあります。そういう時は、子供をインタースクールのサマーキャンプに行かせたり、夫婦でお互いに休暇をずらしてどちらかが子供と一緒にいるようにして工夫しています。
インタビューを終えて
JICAに就職するまでに試行錯誤を沢山されてきた経験を聞かせていただき、今後の自分のためになりました。20代は何をしても、失敗をしても無駄なことはないのだからと話されていて、今しかできないことを沢山挑戦していきたいと思いました。JICAについて、個人的にあまり知らない分野の話を聞けて、また一つ勉強になりました。
取材:土居由佳(JAC Recruitment Vietnam インターンシップ生)