ベトナム・ホーチミンで働く日本人~インディビジュアルシステムズ 浅井崇氏さん~

ベトナム・ホーチミンで働く日本人~インディビジュアルシステムズ 浅井崇氏さん~

更新日:2016年9月27日 / ライター: JAC Recruitment Vietnam

「日本とベトナムのITに革新を」

大学卒業を機にベトナムに渡り、その後20年間ベトナムと運命を共にしてこられた、インディビジュアルシステムズ株式会社(以下、IVS)代表取締役浅井崇氏(あさいたかし)さん。今回は、浅井さんのその壮絶な人生に焦点を当てて、深く語っていただきました。

IVS代表取締役 浅井崇氏さん

IVS代表取締役 浅井崇氏さん

はじめてのベトナム

Q. ベトナムに初めて来られたきっかけは何だったのですか?

それは、越僑(えつきょう:日本在住ベトナム人の別名)の方との出会いがあったからです。私は神戸出身で、周りに外国人が多くいるという環境が幸いしたのか、学生の頃から越僑の方と仲が良くて。その影響もあってか、大学で専攻していた史学科の卒論を「日本軍、フランス領インドシナ進駐における政治交渉」というベトナムに関わるような内容にしたんです。でも、大学生の頃はむちゃくちゃに過ごしてまして(笑)、卒論は書いたのですが、大学4年時にまだ単位が40ほど残っていて、そのときはもう留年する覚悟でした。しかし、ちょうどその年に阪神・淡路大震災が発生して、「震災恩赦」という形で卒業が認められたんです。だから就職先が決まっていないにも関わらず卒業してしまって、、、これからどうしようかと考えていたとき、卒論の研究内容やベトナム人の知り合いがいたということもあって、これを機にベトナム・ハノイに留学しようと決意しました。

Q. 当時のベトナム・ハノイの状況は非常に悪かったと聞きますが?

ええ、本当にひどかったですね。空港が田舎のバス停みたいで、空港から一歩外に出ると辺りすべてが砂の道で、そこらじゅうに牛が歩いていました。当時(1995年)はまだ、周りの田んぼに爆撃の後のクレーターがあって、ベトナム戦争の爪痕が生々しく残っていました。そんな景色を目の当たりにした瞬間、「えらいとこ来てもうたわ。」と思いました。真っ暗闇の中、ホームステイ先までたどり着くと、用意されていた食事は米、野菜炒め、そして芋虫の炒め物だけ。来て早々、ベトナムの洗礼を受けましたね。電気も通っていなくて、少しだけ四季もあるハノイのふきさらしの家で越す冬は本当に辛かったです。でもその反面、当時外国人の自分(ジーパンにTシャツの日本人)は現地民にとってかなり珍しかったみたいで、私が歩くとみんなこぞって後ろをついて来たり、新しく設置された信号機が点滅するだけで喜んだりする彼らは、とても愛らしかったです。

2度目のベトナム

二年間のベトナム生活を経て日本に帰国された浅井さん。その後は地元・神戸で就職、1997年に駐在員として再びベトナムに行くことになるも、すぐにアジア通貨危機の影響で事業が中止。様々な思いを抱えつつも、当時は泣く泣く日本に帰国することとなりました。

Q. そのときの心情についてお伺いしてもよろしいですか?

負けたと思いました。駐在員としてベトナムに行ったにもかかわらず、その当時何もできず、日本に逃げるように帰国せざるを得ない自分が本当に悔しかったです。知恵もアイデアもコネクションも当時とは比べものにならないくらい身に着けた今の自分であれば、あの時の打開策をいくらでも提案できたでしょう。でも、この「悔しい!リベンジしたんねん!」と思わせてくれた経験が、起業から現在に至るまでの原動力になったのだと思います。

3度目のベトナム

浅井さんはその後、2000年までは父親と飲食店を経営され、そして再び神戸で、今後の人生を大きく変えるベトナム人ITエンジニアと出会うこととなります。

Q. ベトナム人ITエンジニアの方についてお教え願いますか?

彼らと出会ったのは、神戸のベトナム人コミュニティーとの交流をするようになってからです。問題を起こしがちなベトナム人実習生ですが、彼らは他の実習生とは違い、真面目でどこか異様な雰囲気をもっていました。聞くと、彼らはITエンジニアだということでした。そんな彼らがベトナムに帰国し、そこで次々と起業していく姿を見ていると、自分も何かしなければ!と掻き立てられまして。それで、私自身3度目のベトナムに挑戦することになりました。

Q.ベトナム人ITエンジニア向けに日本語を教えられていたそうですが、理由は何だったのですか?

そうですね。2000年にベトナム・ホーチミンに行き、それからはしばらくITエンジニアの彼らとともに起業やビジネスを行っていました。その中で日本に行っても、日本語がカタコトという理由だけで実力に見合った仕事をさせてもらえない実習生たちを多く見てきました。当時は誰かが繋いで導いてあげないと日本に行く機会すら得られないような環境だったので、だから余計に、折角そのチャンスを手に入れて日本に行くのであれば、日本で彼らの実力にあった仕事をさせてあげたいと思ったんです。そう考えたとき、当時の私にできることは日本語を教えることだけでした。だから私は、彼らITエンジニアのための日本語クラスを作り、スパルタに日本語教育を施しました。

Q.ベトナムIT業界の開拓者ともいえる浅井さんですが、不安などはなかったのですか?

不安はなかったですね。そもそもベトナムにはIT企業を立ち上げようと思って来たわけではありません。ただ、周りに触発されて様々なビジネスをしていただけでした。そのようなことをしていく中で、一番面白いと感じたITという分野をやってみたら、たまたまその事業が軌道に乗ったという感じだったんです。当時は何でもがむしゃらにやっていて、やれることをやるというスタンスで生活していました。だから、自分で企画して自分で立ち上げて、そしてその結果として少しだけどお金になって生活していける。そういうことがとても嬉しくて、この業界にどっぷり浸かっていきました。会社を設立してみて、その過程に様々な方との出会い・支援がありました。時には様々な困難があって、それを乗り越えて、そしてやっと今こうやって会社を経営できています。すべてが手探りという状態で今に至るので、不安という概念はありませんでしたね。

Q.ベトナム人の良いところは何だと思いますか?

ベトナム人は最高ですよ。「何でベトナムにいるのですか?」という質問をよくされるので、答えを考えていたんですけどね、はっきり言って生活環境はあまりよくないです。でもやはりこの国の“ヒト”が良いからじゃないかという結論に至りました。ベトナムに来て以来20年間、ベトナム人に悪いことをされたことがないというくらい、ベトナムの人は本当にいい人です。それに弊社の従業員を含め、みんな一生懸命で向上心がありますしね。

取材風景

取材風景

Q. ベトナムで起業したいと思われている方にひとこといただけますか?

やめとけ、と言いたいですが。(笑)
ベトナムに来て一人で起業している人は本当に少ないです。そして、そこで成功している人はさらに少ないです。このベトナムでは、将来の展望をいかに計画できるか、資金調達はどうするのか(ベトナムの利息は10%と高い)、そしてそれ以上に反骨心というか「絶対負けへんねん!」という強い想いがないとだめですね。私は過去に悔しい思いをしたので、リベンジしなければならなかったし、ベトナム人に何かを残すために、何かを立ち上げなければならなかったですからね。

Q. 今後したいことなどはありますか?

私がベトナムに来て以来、ベトナム人は私を受け入れてくれて、私にここで商売をさせてくれました。だから、今度は私が恩返しとして、ここベトナムに何を残せるかということを考えています。それは例えば、経営者としての立場から考えると、雇用や技術移転という部分だったりします。また、IVSという会社はもう、ベトナム人だけで回るだけの優秀な人材が多く揃っています。いつも社員には、「たまたま私という日本人がいただけで、この会社はベトナムで設立したのだから、ベトナムの会社だ。」と教えています。日本人の方が優れていて、ベトナム人は優れていない、ということは全くなくて、この国では当たり前ですが、ベトナム人の方が優秀です。だから今後は、この会社をベトナム人にバトンタッチができたらいいなと思っています。

IVS社内の風景

IVS社内の風景

インタビューを終えて

簡単に手に入る100万円よりも汗水かいて手に入れる100円の方が私にはずっと尊い、と語られた浅井さん。たとえ会社がどれだけ成長しようと軸は決して変わらない、そんな芯の強い方だという印象を受けました。その反面、取材中も著者のことを愛称で呼んでくださるなどとてもユニークで、ベトナム人をこよなく愛する本当に優しい方でした。
今回、日本帰国されるということで時間がない中、急きょ取材させていただきました。それにも関わらず、様々なお話を丁寧に語ってくださった浅井さん。大変ご多忙の中ありがとうございました!

取材:杉本ひかり(JAC Recruitment Vietnam インターンシップ生)

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ライター情報

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JAC Recruitment Vietnam

JAC Recruitmentは1975年に英国ロンドンでスタートした人材紹介会社。JAC Recruitment Vietnamは2013年6月にホーチミンに設立、2015年7月にはハノイに進出。英国・アジア11カ国地域に広がる独自のグローバルネットワークと、東南アジアNo.1のノウハウを活かし、経験豊富なコンサルタントがベトナムにおける日本人の転職活動をサポートしています。ベトナムへの就職・転職をお考えの方はお気軽にご相談ください。ウェブサイト ブログ

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