ベトナム・ホーチミンで働く日本人~Arabesque Dance Company 巽千華さん~
更新日:2017年9月5日 (取材日:2017年7月17日) / ライター: JAC Recruitment Vietnam
Arabesque Dance Companyにダンサーとして勤めている巽千華さん。中学生からバレエを学ぶ為に中国に留学、その後オランダの芸術大学へ留学、プロのダンサーとして活躍した後、新たな挑戦としてベトナムに移動。ベトナム唯一の日本人ダンサー、千華さんの魅力に迫りました。
ベトナム唯一の日本人ダンサー
今までの経歴について教えてください。
3歳の頃に当時通っていた音楽教室の先生の勧めでジャズダンスを始めました。その後、様々なジャンルのダンスを習い、当時のダンスの先生の勧めでバレエダンスに絞って取り組むようになりました。中学2年生の時に中国の完全寮制度のバレエ教育に興味を持ち中国へ留学、卒業後オランダの芸術大学への入学試験の機会を頂き、合格して入学。卒業後は3年ほどフリーランスのプロダンサーとしてオランダで生活をしていたのですが、新しい挑戦をしたいと思い知り合いのベトナム人監督に相談したところ、今の環境を紹介して頂きベトナムに2年前に飛び込んできました。今は、Arabesque Dance Companyに勤務して日々稽古やイベント、舞台に立っています。
どうして中学生の時に中国に留学しようと思ったのですか?
中国の寮制のバレエ学校で朝から晩までお稽古する環境がとても魅力的に思えたので行くことを決断しました。
もちろん中国語も何も分からない中での生活でしたが、やるしか無いと思いがんばりました。
全寮制の学校だったので朝起きてから寝るまで全てを学校内で行うという生活で、校外にはほとんど出ていません。また、反日教育を日本人である私が受けるのは貴重な経験で勉強になりました。
オランダの大学に留学した理由はなんですか?
はじめは、私は中国のバレエ学校の大学院に進学する予定でした。ただ、一時帰国をしていた際に知り合いの方からオランダの大学の入学試験があるというお話を頂き、ヨーロッパだしどうせ受からないだろう、という気持ちで受けたら合格を頂き留学することになりました。
挑戦することで、目の前に転がってきたチャンスを掴む事が出来ました。
安定を捨ててオランダからベトナムへの挑戦
ベトナムに来ることに不安は無かったのですか?
もちろんありました。オランダでは安定して生活出来ていましたし、ゼロからのスタートになるので、本当にこれでいいのか何度も悩みました。けれど、オランダでの生活はなんでもあって、この現状に慣れたら自分が成長しないと思っていました。また、今のベトナムの監督は日本の先生の知り合いでシルク・ドゥ・ソレイユの振付師を経験した事のある偉大な監督なので、この人に付いて行きたいという思いもあり、ベトナムに来ることを決めました。
今Arabesque Dance Companyでは社員として働いているのですか?
はい、そうです。ビジネスマンの人と同じで会社に属している事になります。週5日8時から5時までスタジオで舞台の稽古をしたり、企業さんに依頼を頂いてイベントに出演したりしています。お給料も月給制になっています。オランダでフリーランスで働いていた時は、舞台のオーディションを受けて合格したら、稽古、出演をしてお給料をもらうという制度でした。
ベトナムとオランダで感じる文化の違いは何が1番大きいですか?
芸術への理解度が1番大きな違いかと思います。ヨーロッパの人はみなさんが一度は劇場に足を運んだ事のある人が多く、私のように芸術関係の仕事も認知されています。
ベトナムでは一度もオペラハウスに行ったことの無い人のほうが多く、観客も半分程が海外の方です。また、芸術関係の仕事への認知度も低いです。
一方で、ベトナム人の手先の器用さにはとても驚きました。小道具などで手に入らない物はなんでも似たようなものを自分たちで作り上げていきます。
昨日の自分よりは良くなっているように
今までダンサーとして続けてこれた理由はなんですか?
母親の存在が大きいです。母親は私が中国に渡ると決めたときも「やりたいならやりなさい。ただ、一回始めたなら最後までやりなさい」といつも言ってくれていました。
また、踊ることが好きで楽しいというのは続けてこれた理由の1つです。舞台に立っている時や終わった後の達成感はいつも気持ちがいいですね。思い返せばいつも目の前の事に精一杯で、辞めたいって真剣に悩むほどの暇も無かったです。あと、私すごく負けず嫌いで、今まであれだけ一生懸命やってきたのにここで辞めたら悔しい!という気持ちが強いので続けてこれたと思います。
落ち込んだり、上手く行かなかったり、目標を見失った時はどのようにしていますか?
毎日、落ち込んで悩んで後悔しています。けど、踊るしか無いんですよね。落ち込んだまま何もしないと、どんどん辞めたいって気持ちが大きくなってきてしまいます。今の舞台監督は毎日私達に「昨日の自分よりは良くなっているように頑張りなさい」と、声をかけてくださります。その言葉を胸に、昨日出来なかった所は今日出来るように、今出来ることを一生懸命しています。
ベトナムで成し遂げたい事はなんですか?
最近は自分からダンスを取ったらどうなるだろう、という事を考えたりもします。
折角、中国語と英語が話せるのでダンスとは別で語学の資格を取りたいですね。
ダンサーとしては、今に必死で先の事はそんなに考えていないです。笑
ただ、ホーチミンには数多くの日本人が住んでいて、5年もベトナムに住んでいるのに一度もオペラハウスで舞台を見たことがないという日本人が多いので、そういった方に足を運んでもらえるきっかけに私がなれたら良いなとは思います。
感想
舞台 THE MISTの感想
私は今まで芸術には積極的に触れ合ってこなかったのですが、今回インタビューさせて頂く前にサイゴンオペラハウスで巽さんが出演されているTHE MISTを鑑賞してきました。
今までクラッシクバレエしか知らなかった私にとって、近代バレエに触れるのは初めてで、バレエの華麗でしなやかな動きから、観客と一緒になって音楽とダンスを楽しむ場面など、ダンサーの皆さんが表現者として観客に語りかけてくるものがあり、新しい芸術の世界を知ることが出来て良かったです。
インタビューの感想
やわらかい人柄の千華さんとお話して、1つのことに熱中してすべてを注いでいる覚悟とかっこよさを強く感じました。
現在の環境に甘えることなく、自分の成長の為に新しい世界に飛び込み挑戦を続ける、未来の事で悩むよりも、今を必死に全力で駆け抜けている千華さんは本当に輝いていました。
お忙しい中、お時間を割いて頂いた巽さんに感謝申し上げます。
取材日:7月17日加藤真友(JAC Recruitment Vietnamインターンシップ生)