ベトナム・ハノイで働く日本人インタビュー~ベトナム国家大学ハノイ校外国語大学ベトナム社会科学院 横山敏さん~

ベトナム・ハノイで働く日本人インタビュー~ベトナム国家大学ハノイ校外国語大学ベトナム社会科学院 横山敏さん~

更新日:2016年6月13日 (取材日:2016年6月4日) / ライター: JAC Recruitment Vietnam

今回はベトナム・ハノイで農村社会学の研究を行っている横山敏さんにお話を伺ってきました。1946年、戦後の年に生まれて、日本では山形大学の教員として社会学の研究に従事。定年後にベトナムに渡り、御年70歳となった今でも、自身の知的好奇心を大事にし、ベトナムの農村社会学の研究や、ベトナムの学生たちに教育を行っています。研究者の方から見たリアルなベトナムの姿をぜひご覧ください。

横山さん

横山さん

Q まずご経歴を教えてください。

1946年3月に仙台で生まれました。「終戦っこ」の学年です。貧しい時代でした。実家には落ちてきた焼夷弾があり、習字のとき文鎮(ぶんちん)代わりに使っていました。そんな時代です。商人の子で、家は銘木業を営んでいて、床柱・欄間(らんま)・天井板などを扱う仙台の「老舗(しにせ)」でした。

仙台第二高等学校を卒業し、福島大学へ入学しました。その年にアメリカ軍が南ベトナムで掃討作戦を始めました。その後、東北大学の大学院に進み、就職した年がベトナム戦争が終わった年でした。ですから私の学生時代は全部ベトナム戦争の時代でした。時代の子というのでしょうか、その経験は今も深く脳裏に焼きついています。

社会学担当の教員として山形大学で働き、実証的・理論的な研究をしてきました。日本の農村の研究と、大学の授業では社会学の理論や日本の現実を講義しました。山形には本間家という日本一の地主がいたり、有機農業が盛んな地域があったりと農村社会学の研究に一番ふさわしいところでした。2011年の「東日本大震災」の3月までこの大学に在職しました。そのころは日本が研究対象だったので、ベトナムへの関心は脇においてあったような状況でした。しかし、教養部がなくなり、授業料が高くなり、国立大学が法人になる等、次第に日本の大学に「学問の自由」が失われてきたので、「定年後が研究の本番だ」などと考えだすようになりました。そうこうする中で、ベトナムへの興味が沸々と再燃して、ベトナムの農村社会を研究するためにベトナムにやっと2014年の3月にくることができました。

Q 現在のご活動を教えてください。

私の訪越の目的は、ベトナム農村の研究でした。統計や文献を読んだり、インタビューをしたりベトナム語は欠かせないですから、まず最初の1年は「ベトナム国家大学ハノイ校外国語大学」で学生としてベトナム語の勉強をすることにしました。入学の時、大学で授業をして欲しいと依頼されましたが、リスクが大きく簡単に引き受けるわけにはいきませんでした。まず、大学のようすが日本とはまったく違います。また、ベトナム人学生の問題意識そのものを問う必要がありました。一年間準備してベトナム人向けのテキスト等を作成しました。今年は、日本語学科の大学院生向けに、「現代日本社会」というテーマで『日本学』という授業を担当しました。

また、ベトナム社会科学院では、日本語の教師をしています。ベトナム人の学生は、ここで非常に熱心に勉強に取り組んでくれますね。ここはベトナムの社会科学研究の中心です。ベトナム人スタッフの皆さんから研究者としてとても歓迎され、いずれ共同研究もできるようになるでしょう。

Q どういったことを意識して授業をされているのですか?

大きく分けて2つあります。1つは日本の文化を深く理解するための手助けになりたいと思っています。日本人の側のベトナム理解もそうですが、ベトナム人の日本への興味もまだ表面的であるような気がしました。ベトナム人は日本の文化に興味を持ってくれて積極的に文化交流等に参加してくれますが、「遠い北の国」の素敵な異文化という印象が強いようです。日本人の多くも、過去にベトナムで起きたことは「対岸の火事」という印象で受け止めてきたのですが。日本を本当に深く理解してもらうためには、歴史や現実や日本人の良識などをしっかり把握させることが大切です。そういった障壁を乗り越える手助けがしたいと思って授業に取り組みました。

2つ目は、社会の総体把握という方法を伝えたいということです。社会にはいろいろな領域があり、政治と産業・労働、そして宗教や芸術といった諸分野が折り重なってできています。そこで、政治や産業など時代が判で押したように映画や文学作品や個人のライフスタイルに出てくるわけではないのです。ある日本の文化(例えば個々の文学作品)は時代状況とそれぞれ固有の糸でつながっています。日本の生きた文化の社会とのつながりを分かるようにしてあげたいと思いました。

講義中の様子

講義中の様子

法学や経済学などのようなガシッとしたものは社会学にはないのですが、個人の生活から出発して社会全体を掴(つか)み取っていく面白さがあります。個人のアクションや生活の側面たとえば、宗教や生産活動、職場に出かけて行ったり、家庭で食事をしたりといった普段の生活の側面から、社会全体を捉えていくのです。

Q ベトナムでの生活はいかがですか?

ベトナム人は、日本人をフレンドリーに迎え入れてくれます。特にベトナム語を使おうとすると大歓迎のようです。

またベトナムで暮らしていると、日本が却(かえ)ってよく見えてくるような気がしますよ。日々、いろいろな人に日本社会はどうなの?日本人はどうなの?と問われるので。そこで改めて感じた日本人の“良き特性”は、技術にしても、職業上の技能にしても、学問や芸術にしても「極める」という点にあるような気がします。日本人はこれまで中国や欧米から進んだものを取り入れてきましたが、それらを日本の文化にとり入れながらも、とり入れたものの本質をさらに深く追求する、日本人はそういった点で「優れているな」と思います。

インタビューを終えて

横山さんとお話させていただいて、知的好奇心の高さ、研究し続ける姿勢に驚かされました。
また、勉強や研究は誰かに言われたからとか、点数を取るためにするのではなく、物事に対しての内発的な好奇心から始まるもので、それが知的誠実性(その一部)というものだ。とおっしゃっていたのがとても印象的でした。内発的に行動していけると結果にも大きく影響してくるので非常に大事なことだと感じました。

横山さん、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。

取材2016年6月4日 齊藤陸(JAC Recruitment Vietnam インターンシップ生)

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ライター情報

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JAC Recruitment Vietnam

JAC Recruitmentは1975年に英国ロンドンでスタートした人材紹介会社。JAC Recruitment Vietnamは2013年6月にホーチミンに設立、2015年7月にはハノイに進出。英国・アジア11カ国地域に広がる独自のグローバルネットワークと、東南アジアNo.1のノウハウを活かし、経験豊富なコンサルタントがベトナムにおける日本人の転職活動をサポートしています。ベトナムへの就職・転職をお考えの方はお気軽にご相談ください。ウェブサイト ブログ

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